月見坂書房、相談お断り。 Vol.1|この本屋、相談を受け付けません。の表紙

BOOK · VOL.1

月見坂書房、相談お断り。 Vol.1|この本屋、相談を受け付けません。

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月見坂商店街の片隅にある、小さな本屋「月見坂書房」。店主の野村誠司、42歳は、ただ静かに本を売りたい。ところが店には、妻の年齢を間違えて52本の薔薇を贈った男性や、自治会を辞めるために48ページの理由書を書いた女性など、人生の相談を抱えた人ばかりがやってくる。困り果てて掲げた「本の相談は歓迎。人生相談はお断り。」の貼り紙はSNSで話題になり、相談客はさらに増えてしまう。断れば断るほど仕事が増える店主と、少し変わった人々を描く、笑えて温かいお仕事コメディの第1巻。物語は巻をまたいで続きます。第1巻から順にお楽しみください。

出版社
灯雨文庫
形式
Kindle版
巻数
Vol.1
読み順
巻をまたいで続く物語です。Vol.1から順にお読みください。
ASIN
B0HPCT37HY
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READ A LITTLE

物語の冒頭を、少しだけ。

『月見坂書房、相談お断り。 Vol.1|この本屋、相談を受け付けません。』より

野村誠司は、本を売るために本屋を始めた。少なくとも、八年前にこの店を引き継いだときは、そう考えていた。 本を仕入れ、棚に並べ、客が気に入った一冊を選んで帰っていく。そんな当たり前の商売を続けながら、ときどき自分も本を読む。それほど大きな成功は望んでいないし、平穏に暮らせれば十分だと思っていた。 ところが、現実はなかなか思いどおりにならない。 「すみません。妻に謝りたいんですが、どうしたらいいでしょうか」 月曜日の午前十時十二分。開店して間もない月見坂書房のレジで、誠司はそんな質問を受けていた。 目の前には、四十代くらいの男性が立っている。きちんとしたシャツに落ち着いた色のズボン。見るからに真面目そうな人物だったが、その手には本も雑誌もなく、何かを購入するつもりがあるのかどうかもわからなかった。 「……何か、お探しの本がございますか?」 「いえ、本というより、ちょっと相談がありまして」 「こちらは書店ですので、専門的なご相談にはお答えできないんですが」 「わかっています。でも、本屋さんって、いろいろなことをご存じでしょう?」 誠司は返事に困った。本屋にいろいろな本があることは事実だが、店主が何でも知っているわけではない。医学書を売っているからといって病気を診断できるわけではないし、料理本を並べているからといって夕食を作ってあげられるわけでもない。 ましてや、見知らぬ夫婦の仲裁など、できるはずがなかった。 「実は、妻の誕生日を間違えまして」 男性は申し訳なさそうに頭を下げた。 「日付をですか?」 「年齢です」 「……年齢?」 「妻は五十一歳になったんですが、僕、五十二歳だと思い込んでいたんです。それで、薔薇を五十二本贈ってしまって」 「一本、多かったんですね」 「はい。妻は花屋をやっているので、数を見た瞬間に気づかれました」 「それは……」 「怒られました」 「でしょうね」 思わず口から出てしまった。男性は深くうなずき、まるで重大な病名を告げられた患者のような顔をした。 「やっぱり怒りますよね。僕としては、一年分お得な気分になってくれればと思ったんですが」 「お得かどうかの問題ではない気がします」 「ですよねえ」

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