BOOK · VOL.49
人生を変える図書館 Vol.49|人の気持ちを読みすぎる
人生を変える図書館を見る同僚の返信が短い。上司の声がいつもより厳しい。そんな小さな変化のたびに「私、何かしたかな」と考えてしまう二十代の女性。人の感情を自分の荷物にして疲れ切った彼女に、司書の栞が手渡したのは実用書『静かな心の守り方』だった。相手の返事が短いのは事実でも、怒っているかどうかはまだ分からない。「気づくこと」と「引き受けること」を分け、自分の気持ちも大切にしていく読書物語です。
- 出版社
- 灯雨文庫
- 形式
- Kindle版
- 巻数
- Vol.49
- ASIN
- B0HPMHX3QN
READ A LITTLE
物語の冒頭を、少しだけ。
『人生を変える図書館 Vol.49|人の気持ちを読みすぎる』より
午後の図書館には、薄い秋の日差しが差し込んでいた。窓辺の机に光が落ち、その中を小さな埃がゆっくり漂っている。館内にはページをめくる音と、遠くで本を棚へ戻す音だけが静かに響いていた。 本宮栞はカウンターの奥で返却された本を整理していた。人間関係の本、心理についての本、暮らしを整える本。その中には、心を疲れさせないための実用書も何冊か混じっている。 人の気持ちに気づけることは、優しさになる。 相手が疲れていることに気づく。言葉にしていない困りごとを察する。場の空気が変わったことを感じ取る。 けれど、気づくものが多すぎると、世界は少し騒がしくなる。 午後三時頃、入口のベルが鳴った。 「いらっしゃいませ」 入ってきたのは、二十代半ばくらいの女性だった。淡いグレーのカーディガンに黒いロングスカート。肩には小さなバッグをかけている。 女性は入口で館内を見回した。 その視線は、本棚より先に人を見ているようだった。 窓際で本を読んでいる人。 奥で話している二人。 カウンターにいる栞。 それぞれの表情を一瞬ずつ確認するように見てから、女性は本棚へ向かった。 数分後、一冊の本を取る。 少し読む。 戻す。 また別の本を取る。 その途中、近くで本を探していた男性が小さくため息をついた。 女性の動きが止まった。 男性を見る。 自分の方を見る。 少し場所を空ける。
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