泣きたい時に読む本 第十六巻 雪の日の足跡の表紙

BOOK · VOL.16

泣きたい時に読む本 第十六巻 雪の日の足跡

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雪深い白峰町の小さな宿「雪代荘」。母が迎えに来なかった九歳の冬、家出先で見つけてもらった十八歳、父の車を追いかけた雪道、同じ速度で歩けなくなった夫婦。そして宿を営む泰一には、三年間、一人分になっていた足跡がある。誰かを待ち、追いかけ、もう一度隣に並ぶ人々を描く五つの短編連作。足跡は消えても、一緒に歩いた時間は残っている。

出版社
灯雨文庫
形式
Kindle版
巻数
Vol.16
ASIN
B0HNHPKCXR
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READ A LITTLE

物語の冒頭を、少しだけ。

『泣きたい時に読む本 第十六巻 雪の日の足跡』より

白峰町では、十二月になると町の色が少なくなる。山も、屋根も、畑も、朝になるとほとんど白くなり、道路の端には雪かきで積み上げられた雪の壁ができる。 町の外れにある古い宿「雪代荘」も、冬になると玄関までの細い道を毎朝雪かきしなければならなかった。宿を営む小暮泰一は六十八歳。生まれた時からこの町で暮らし、四十年以上、妻の志津子と宿を守ってきた。 雪代荘に泊まる客の多くは観光客だったが、冬になると時々、観光とは別の理由で戻ってくる人がいた。 十二月最初の大雪の日。三十五歳の佐々木真帆は、六十六歳の母・洋子と十四歳の娘・莉子を連れて宿へやってきた。 「三人で旅行なんて初めてだね」 莉子が嬉しそうに言った。 「そうだっけ」 「おばあちゃんとは初めて」 洋子が笑う。 「私も孫と温泉なんて初めてよ」 真帆だけが、窓の外を見ていた。雪が強くなっていた。それを見ると、三十五歳になった今でも、胸の奥に少し冷たいものが戻ってくる。 九歳の冬。母が迎えに来なかった日のことを思い出すからだった。

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