BOOK · VOL.10
絵がやさしく語る夜に|風に揺れる傘
絵がやさしく語る夜にを見る雨上がりの街角、にじむ光の中で風に揺れる一本の傘。崩れた計画、信じることへの不安、閉じたままの心を抱えた人々が、傾きながらも折れずに立つ傘へ自分を重ねていく。揺らぎの中にある静かな強さを描く連作短編集です。
- 出版社
- 灯雨文庫
- 形式
- Kindle版
- 巻数
- Vol.10
- テーマ
- 美術と絵画をめぐる物語
- ASIN
- B0GYJ4WPY9
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物語の冒頭を、少しだけ。
『絵がやさしく語る夜に|風に揺れる傘』より
展示室の壁に、印象派風の風景画が掛かっている。雨上がりの街角。濡れた石畳が淡く光を反射し、遠くの建物はにじむ色彩の中に溶け込んでいる。その中央に、一本の傘。風にあおられ、少し傾いている。 人物の顔は描かれていない。ただ、小さな後ろ姿が、傘を握って立っている。その前に、三十代前半の女性が立っていた。 「……まっすぐ立っていないですね」 彼女は、傾いた傘を見つめて言った。 「風が強いのでしょう」 「でも、倒れていない」 女性は小さく笑った。 「最近、私もこんな感じです。予定通りにいかなくて」
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