BOOK · VOL.1
絵の中の旅人 Vol.1|雨のアトリエ
絵の中の旅人を見る400〜800字版一枚の絵には、描かれた人がいる。描いた人がいる。そして、描かれなかった物語がある。新人学芸員の白瀬まひろは、企画展の準備中、収蔵庫の奥で一枚の古い絵と出会う。題名は《雨のアトリエ》。十九世紀フランスで描かれたと推定されるその絵には、雨の窓辺に座るひとりの女性が描かれていた。作者は不詳。モデルの名前も、来歴もわからない。けれど、まひろが額縁に触れた瞬間、絵の中の雨が動き出す。 目を覚ました先は、雨の降るパリのアトリエ。そこには、貧しい若き画家エティエンヌと、明日の朝には町を去る女性クララがいた。
- 出版社
- 灯雨文庫
- 形式
- Kindle版
- 巻数
- Vol.1
- ASIN
- B0H2PRR15D
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物語の冒頭を、少しだけ。
『絵の中の旅人 Vol.1|雨のアトリエ』より
雨の日の美術館は、いつもより少しだけ息を潜めている。 床を歩く靴音はやわらかく沈み、天井の高い展示室には、人の声よりも雨粒の気配のほうが濃く漂っていた。大きな窓の向こうでは、灰色の空から細い雨が降りつづいている。ガラスを伝う水滴が、展示室の照明を受けて、細い銀の糸のように光っていた。 白瀬まひろは、展示室の隅に立ち、ひとつ息を吐いた。 この春から、この小さな私設美術館で働きはじめたばかりの新人学芸員だった。学芸員といっても、まだ胸を張ってそう名乗れるほどの仕事はできていない。
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