BOOK · VOL.7
絵がやさしく語る夜に|紅茶の湯気の肖像
絵がやさしく語る夜にを見る白いカップから立ちのぼる紅茶の湯気。言えなかった「ありがとう」、ひとり分のぬくもり、子を想う心配、自分を許せない夜。《紅茶の湯気の肖像》が、誰にも見えない温度を冷えた心へ運ぶ、水彩静物画の連作短編集です。
- 出版社
- 灯雨文庫
- 形式
- Kindle版
- 巻数
- Vol.7
- テーマ
- 美術と絵画をめぐる物語
- ASIN
- B0GTJZMGMC
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READ A LITTLE
物語の冒頭を、少しだけ。
『絵がやさしく語る夜に|紅茶の湯気の肖像』より
午後の光が、美術館の床を淡く染めていた。展示室の奥で、水彩の『紅茶の湯気の肖像』がやわらかく揺れている。描かれているのは、白いカップに注がれた紅茶。背景は淡い木目のテーブル。そして、立ちのぼる湯気だけが、繊細な筆致で空気に溶け込んでいる。 湯気は触れられない。形もすぐに変わる。けれど確かに、そこに“温度”がある。その前に、一人の女性が立っていた。コートの袖口から覗く指先が、少し赤くなっている。 「……あたたかそう」 女性はそう言って、両手をこすり合わせた。 「寒い日でしたか?」
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