BOOK · VOL.8
絵がやさしく語る夜に|古い靴と帰り道
絵がやさしく語る夜にを見る木の床に置かれた、靴底のすり減った一足の革靴。謝れなかった言葉、帰りたくない夜、置いてきた自分、遠回りした日々。《古い靴と帰り道》が、歩いてきた時間と消えない足跡を静かに映す、デッサン静物画の連作短編集です。
- 出版社
- 灯雨文庫
- 形式
- Kindle版
- 巻数
- Vol.8
- テーマ
- 美術と絵画をめぐる物語
- ASIN
- B0F1M1Z1FP
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物語の冒頭を、少しだけ。
『絵がやさしく語る夜に|古い靴と帰り道』より
展示室の奥で、鉛筆デッサンの『古い靴と帰り道』が静かに佇んでいる。木の床に置かれた革靴。紐はほどけかけ、つま先は少し擦れている。濃淡だけで描かれた影が、夕方の気配をにじませていた。 その絵の前に、四十代半ばほどの男性が立っていた。仕事帰りらしく、同じようにくたびれた靴を履いている。 「……似てるな」 男性は自分の足元を見て、苦笑した。 「この靴ですか?」 「ええ。僕の靴も、こんな感じです。ずっと同じのを履いていて」 彼は少しだけ視線を落とした。
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