BOOK · VOL.2
弘前
たびとぬくもりのものがたりを見る北海道・小樽を舞台に、旅人がそっと触れる優しさを描いた五つの短編集。運河の朝に出会う穏やかな笑顔、坂の途中で香る丸パンのあたたかさ、雪に包まれた運河沿いで語られる思い出、ガラス職人が見せてくれた海の色――どれも旅の一瞬を柔らかく照らす、小さな灯りのような出来事です。派手な事件も特別な奇跡もないけれど、土地の空気と人の言葉が、旅人の心を静かにほぐしていく。その温度が積み重なったとき、小樽という町の「人情」が静かに姿をあらわします。読んだあとに、胸がゆっくり温まる。そんな“旅の余韻”をお届けします。
- 出版社
- 灯雨文庫
- 形式
- Kindle版
- 巻数
- Vol.2
- テーマ
- 旅の気分を味わう物語
- ASIN
- B0GNBFCVY4
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READ A LITTLE
物語の冒頭を、少しだけ。
『弘前』より
弘前駅に降り立つと、空はやわらかな灰色に染まっていた。雨粒は細く、風に溶けるように静かに落ちてくる。傘を開くほどでもないけれど、頬に触れるとひんやりして、旅に来た実感がふわりと胸に広がった。 荷物をコインロッカーに預け、私は城址公園のほうへ歩き出した。道にはりんごの木がところどころ植えられていて、赤い実がいくつか枝に残っている。落ちた雨粒に光が反射し、小さな宝石のように揺れていた。
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