BOOK · VOL.11
旅する鑑定士の事件帖 Vol.11|岸へ近づく舟
旅する鑑定士の事件帖を見る湖畔の古い旅館に飾られた、一幅の水墨画。霧の湖には、小さな舟が一艘描かれている。旅館の主人によれば、その舟は数年に一度、少しずつ岸へ近づいているという。そして舟が動いた年には、必ず一人、長く帰らなかった客が戻ってくる。 古道具鑑定士・草壁悠介が訪れたのは、鏡ヶ淵湖のほとりにある老舗旅館「湖月館」。 調査を始めた悠介は、水墨画の舟が後から何度も描き加えられていることに気づく。 さらに三十年前、この旅館から一人の女性が姿を消していた。 杉原澄江、当時二十二歳。 湖畔には草履だけが残され、遺体は見つからなかった。
- 出版社
- 灯雨文庫
- 形式
- Kindle版
- 巻数
- Vol.11
- ASIN
- B0HF7SGFQF
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物語の冒頭を、少しだけ。
『旅する鑑定士の事件帖 Vol.11|岸へ近づく舟』より
湖畔の旅館には、三十年前から岸へ近づき続けている舟の絵がある。 最初にその話を聞いたとき、草壁悠介は、紙の伸縮だろうと思った。 水墨画は湿度に敏感だ。 掛軸の裏打ちが歪めば、描かれた位置が変わったように見えることもある。古い墨が滲み、輪郭が広がれば、舟と岸の距離が縮まったように感じることもある。
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