BOOK · VOL.16
旅する鑑定士の事件帖 Vol.16|大きくならなかった背広
旅する鑑定士の事件帖を見る閉店を控えた港町の老舗仕立屋から、一着の紺色の背広が持ち込まれる。内ポケットにあった二枚の採寸票は二十年離れているのに、すべて同じ数字だった。唯一増えた「右肩四センチ」という記録から、誰かと同じ道を歩いても同じ人になるわけではないことを読み解く鑑定ミステリーです。
- 出版社
- 灯雨文庫
- 形式
- Kindle版
- 巻数
- Vol.16
- ASIN
- B0HJPB4FSZ
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物語の冒頭を、少しだけ。
『旅する鑑定士の事件帖 Vol.16|大きくならなかった背広』より
春の港町には、潮の匂いと一緒に、まだ少し冷たい風が吹いていた。駅から海へ向かう坂道を十分ほど下ると、古い商店街がある。魚屋、乾物店、時計店。その並びの端に、色の褪せた紺色の看板が残っていた。 榊テーラー。昭和二十三年創業。店を閉めることになり、倉庫の整理をしていたところ、一本の古い背広と妙な採寸票が見つかった。草壁悠介を呼んだのは、二代目店主の榊慎吾だった。六十八歳。白髪を短く整え、首には使い込まれた黄色いメジャーを掛けている。 「父の仕事なんです」
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